神々の黄昏

201709161437354月から伊勢新明社の総代を務める。 任期は3年。 これから毎月第一日曜日、および大晦日と元旦の朝は、祭事により確実にこちらの神社で過ごすこととなる。

問題は“伊勢新明社”がなんであるか、“総代”が何をするものなのか、全く知らないまま引き受けてしまった事である。
今の総代(70歳前後の方)からして、「僕も何にも分かんないままやって来ちゃったからね」、こうしろああしろなどと明言することは、とてもできないとおっしゃる。
ならば現総代に比してひよっこの僕ごときが、「伊勢新明社ってのはね」などと、グラス片手にうんちくを語れるほどあまい世界ではないはずだ。
きっと総代を勤め上げた3年後であれば、世界の謎も人が存在する理由もことごとく明らかとなり、悟りの境地が開かれている事だろう。 ケネディ暗殺の真実も、藤波が猪木の前で髪を切った時の心情も、我が家にyuriちゃん・sumireちゃんみたいな双子の孫がいない理由も、全て解き明かされているに違いない。
そう思って改めてみるに、現総代の、田舎の好々爺としか映らないその瞳の奥に、実は「全部知ってるよ」と無言に語りかけてくる涅槃の域が、垣間見えるようだ。 なんと畏れ多い事だろう。

そうはいっても、4月からは現実的にいろいろとイベントもあるらしいし、知らんじゃ済まんわな。 どないしましょ?
「これ、読んどいて」と渡された資料によれば、社本殿の建立は天保11年(1840年)。 御祭神は天照大神【あまてらすおおみかみ】とある。 おぉ、オレでも名前くらいは知ってる、メジャーな神さまじゃないの。
弟の須佐之男命【すさのおのみこと】の乱暴狼藉を悲しみ、天岩戸(あまのいわと)にお隠れになると、世の中は光brock-undertaker-727x485を失い闇の世界となり、作物も育たず、秩序も失われたとされる女神である。 太陽、光、慈愛、真実、秩序を象徴する最も尊い神さまだそうだ。
つまりWWEに例えるならば(例えられるものなのかよくわからないが)、現ユニバーサル王者のブロック・レスナーか、“デッドマン”ジ・アンダーテイカーくらい凄いのではないか。 古今亭志ん朝の「幾代餅」、五代目古今亭志ん生の「心中時雨傘」レヴェルの影響力を持つ存在と言えるのではないか。 それとももっと、人智で計り知れないほどの巨大な顕現であろうか。 ま、そうだわな。

もとい。

清水の(人によってはド田舎と呼ぶ)山の手に居を構えて20数年経つ。 当時の土地開発公社の説明会で、ここを購入する世帯は地域独自の文化を尊重するよう何度も釘を刺されていたから、当番が回って来るたび伊勢新明社のお札に1,000円を払ってきたし、境内のお掃除を年1回の頻度で続けて来た。
この当番の任期が3年で、いよいよ新年度から僕に番が回ってくる。
ついては去る2月25日、新しい当番の顔合わせがあるので自治会館に参加せよと呼ばれる。 定時には大体のメンバーが揃ったが、○組の〇〇さんと△組の△△さんがいないなどと、総代がしきりに携帯をかけている。 たかが顔合わせで14名全員参加を目論むなど大袈裟に過ぎる気もしたが、結局皆さん集まってから、20分遅れの開会となった。

開口一番、「本日中に三役を決めてもらいます」と宣言がある。 汚ったねェ~、だまし討ちみたいなことするじゃん。
でも最初から三役決めますなんて招集したらきっと誰も出てこなかったろうし、仕方ないと言えば仕方ない。 3年後の今頃は、きっと自分たちも同じ手を使って何も知らない14名を呼び出すことだろう。
ちなみに三役とは、総代・副総代・会計をさす。 会計は分かるが、他の二役がピンとこない。

それからしばし、沈黙の時間が続く。 下を向く人達が大半を占める中、オレ歳だから関係ねぇやくらいの爺様が、「アイツは地区の役員いつも逃げてやがんだ」などと、僕に小声でチクってくる。 はぁはぁと笑顔で相づち打ちつつも、こういう輩に限って実は何にもやってないんだよななどと、腹の中で苦虫をかみつぶす。 実際、決まらない時間が長く続いた後、「アンタ今まで何にもやってないんだからやれよ」と名指しされ、「お、オラもうすぐ80だし、あちこち病気だし(ウソこけ)、女房が反対するし・・・」などと言ったきり、下を向いて沈黙してしまう。 他にもエゴイズム剥き出しの人間模様が展開されていくが、その中にあって僕も例外ではない。 何が何でも逃げ切らねば。 その気概でいっぱいであった。

地元の伊勢新明社は、いわば末端の支部みたいなもので、本社に当たるのが三重県の伊勢神宮である。 毎年バスツアーがあって、“本社”詣でする総代も少なからずいるんだとか。 経費でるんですか? 自腹です。 それじゃますます成り手いないわな、3年の内1回は夫婦でご招待なんて特典付けたら、手を挙げる人もいるんじゃない? アンタ、総代になって企画してよ。 やっべ~、やはり沈黙が金なり。

こうなると我慢比べだ。 音を上げた者が負けである。
しばらくすると、ボクみたいなもんでよかったら会計だったらやりますけどと、50代らしき男性が手を挙げる。 ひとり決まり。 最悪の総代就任だけは、避ける作戦に出たか。 でも、会計ってある意味いちばんかったるいしなぁ。
「ワシ、4月から自治会長やらなイカンのよ」さすがにこういう人は除外。 「ワシも今年、報徳会と老人会の二役があるもんでなぁ。 それさえなかったら請けてもエエんじゃが」 人のよさそうな御仁が漏らす一言に、○○さん、そこを何とか頼むわ。 すかさずつけこまれる。 さんざん逡巡をなさった挙句、「さすがに総代は無理じゃが・・・ 副だったら、そいじゃワシ、やるわ」 見ごと陥落。

いよいよ残すは総代のみ。 このとき開会から、すでに2時間が経過している。
「ワシは住まいはこっちじゃが、商売やっとって実際にお付き合いしてるのは街の商店会の方じゃ。 こっちには寝に帰ってくるくらいのもんで、あんまし愛着もわかんのじゃ」「こういう役割は仕事をリタイアした人が、地元への恩返しでやるべきでしょう。 現役の我々が仕事休んで会合に出るなんて、現実的じゃないですよ(そうだそうだ、年寄りがやれ~ぃ)」

で、気づくとなぁんとなく、僕が仕切る形になっていて・・・ 「じゃあ、自ら役a51ed51aa39507ad2dbc9d5225afdeea_400x400を請けられたお二人に、総代選出を一任するという事でどうでしょう?」と提案。 一部、それでも渋る人がいたものの、言ったときにはこりゃ指名されるのはオレだなと、覚悟を決めた。 負けた。 つうか、無神論で、墓に恰好だけ手を合わせても祈念したことなど一度もないオレみたいなのが、一度の人生こういう役回りも時に面白いかと、気分を変えた。

案の定、別室で数分話し合いがもたれ、戻ってきた二役が指名したのは僕だった。 この流れだったら、そうなるわな。 わかりました、謹んでお受けいたします。

というわけで、4月から僕は、神に仕える身となる。 相手は八百万の神の最高峰、天照大神である。 会社の名刺にも、天照大神付きの肩書など、入れた方がいいだろうか。 そして羽ばたく。

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